都心マンションで広がる「定期借家契約」について
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東京23区を中心とする首都圏の賃貸市場で、近年大きな変化が起きています。その一つが、「定期借家契約」を採用する賃貸住宅の増加です。
これまで日本の賃貸住宅では、契約更新を前提とした「普通借家契約」が一般的でした。しかし近年、港区や渋谷区をはじめとする都心部では、定期借家契約による募集が目立つようになっています。かつては転勤や海外赴任などで一時的に自宅を貸し出す際に利用されるケースが中心でしたが、現在では賃貸経営の収益性や柔軟性を高める手法として、多くのオーナーや投資家から注目を集めています。
背景にあるのは、上昇を続ける家賃相場と、賃貸経営を取り巻くコスト増加です。なぜ今、定期借家契約が増えているのか。そして、それがどのようなメリットをもたらすのかについて、現在の市場動向を踏まえながら詳しく見ていきましょう。
定期借家契約が注目される理由とは
まず、普通借家契約と定期借家契約の違いを整理しておきましょう。
普通借家契約は契約更新を前提とした契約です。借主が更新を希望した場合、貸主は正当な理由がなければ契約更新を拒否できません。そのため、一度入居者が決まると、家賃を市場相場に合わせて引き上げることは容易ではありません。家賃の増額には入居者の同意が必要となり、双方の協議がまとまらなければ法的手続きが必要になる場合もあります。
一方の定期借家契約は、契約期間満了によって終了する契約です。例えば契約期間を2年間と定めた場合、期間満了時点で契約は終了し、引き続き入居を希望する場合には新たに再契約を行います。
ここで重要なのは、「更新」ではなく「再契約」である点です。再契約を行うかどうかの判断は貸主側にあり、その時点の市場環境に応じた条件を提示できます。仮に周辺相場が上昇していれば、「次回は現在より高い賃料で契約する」という提案も可能です。
この仕組みが、現在のようなインフレ環境や家賃上昇局面において、多くの貸主から支持されている理由です。
都心部で定期借家契約が増加する3つの背景
定期借家契約の普及を後押ししている背景には、主に3つの要因があります。
1. 都心部における家賃上昇
東京23区の賃貸市場では、ここ数年にわたり家賃の上昇が続いています。建築資材や人件費の高騰による新築供給の減少に加え、共働き世帯を中心とした都心回帰の動きもあり、人気エリアでは需要が供給を上回る状況が続いています。
普通借家契約では、相場が大きく上昇しても既存入居者の家賃を簡単には引き上げられません。しかし定期借家契約であれば、再契約のタイミングごとに市場相場を反映しやすくなります。収益機会を逃さずに済むことから、投資用マンションのオーナーを中心に採用が広がっています。
2. 賃貸経営コストの増加
マンション経営に必要な修繕費や管理費、固定資産税などは年々上昇傾向にあります。特に近年は建築費の高騰により、大規模修繕の見積もり額が従来より大幅に高くなるケースも珍しくありません。
経営者としては、こうしたコスト上昇を賃料へ適切に反映させる必要があります。そのため、賃料条件を定期的に見直しやすい定期借家契約は、有効な経営手法の一つとして評価されています。
3. 物件管理上のリスク軽減
家賃滞納や騒音トラブル、近隣住民との問題などが発生した場合、普通借家契約では契約解除に時間と労力を要することがあります。一方、定期借家契約であれば、再契約を行わないという選択肢を持つことができます。
もちろん、安易に再契約を拒否することは望ましくありません。しかし、物件の資産価値維持や居住環境の保全という観点から見れば、一定の管理権限を確保できることは大きなメリットといえるでしょう。
家賃改定がしやすい仕組みと押さえるべきポイント
定期借家契約が「家賃を上げやすい契約」と言われるのはなぜでしょうか。
最大の理由は、再契約時に契約条件を見直せることにあります。
普通借家契約の更新では、現在の契約内容が基本的に継続されます。そのため家賃増額はあくまで例外的な交渉となります。しかし定期借家契約では、再契約時に新しい契約書を締結するため、その時点の市場相場を反映した賃料設定が可能です。
例えば、契約期間中に周辺相場が10〜20%上昇していた場合、その水準に近い賃料で再契約を提案することもできます。もちろん市場相場を大きく超える金額設定は現実的ではありませんが、適正な賃料への見直しを行いやすい点は大きな魅力です。
また、契約内容によっては賃料改定に関する特約を設けることも可能です。こうした条項を適切に整備することで、将来的な収支計画を立てやすくなるという利点があります。
ただし、貸主側にも注意点があります。
定期借家契約は、入居者から見ると「将来的に住み続けられる保証がない契約」と受け止められることがあります。そのため、募集時には再契約の方針を明確に伝えることが重要です。
実際には、都心部の高級賃貸マンションや分譲マンションの賃貸では、「大きな問題がなければ再契約可能」としているケースも少なくありません。安定した賃貸経営を目指すのであれば、単に契約形態を変更するだけでなく、入居者との信頼関係を築く姿勢も欠かせません。
日本の賃貸市場は転換期を迎えている
これまでの日本では、「一度入居したら長く住み続ける」という考え方が一般的でした。しかし近年の都心部では、その前提が少しずつ変わり始めています。
海外に目を向けると、アメリカやヨーロッパの主要都市では、一定期間ごとに契約を終了し、市場価格に合わせて再契約するスタイルが広く浸透しています。日本でも、特に都心部の高価格帯マンションや投資用不動産を中心に、同様の考え方が取り入れられつつあります。
今後も建築コストや管理コストの上昇、人口の都市集中などが続く場合、定期借家契約はさらに普及する可能性があります。特に将来的な売却や建て替え、自宅としての利用などを視野に入れている方にとっては、柔軟な出口戦略を実現するための有力な選択肢となるでしょう。
一方で、契約形態だけが賃貸経営の成功を左右するわけではありません。市場動向を把握し、適切な賃料設定を行いながら、入居者に選ばれる物件づくりを継続することが重要です。定期借家契約は、そのための有効な経営ツールの一つとして、今後ますます注目されていくことになりそうです。