民法改定「共有」について
- 売却
民法改正と共有制度の見直し時代に即した「共有」のあり方とは
日本の民法は、1896年の制定以来、社会の変化に応じて段階的に見直しが進められてきました。近年では所有者不明土地問題が深刻化し、その解消に向けた民法の大規模な改正が注目を集めています。とりわけ、不動産の「共有」制度に関する改正は、国民生活や不動産取引に直結する重要なテーマとなっています。
本コラムでは、2023年の民法改正における共有制度の見直しについて概観し、その背景や影響、今後の課題を考察します。
所有者不明土地問題と共有制度の課題
近年、地方や過疎地域を中心に「所有者不明土地」が社会問題化しています。相続登記の未了や、権利関係が複雑なまま放置された土地が全国に点在し、公共事業の遅延や防災・再開発の妨げとなってきました。
その原因の一つに、共有制度の不備が挙げられます。複数人が共同で不動産を所有する「共有」は、相続や投資目的などで頻繁に利用される形態ですが、その管理や処分には原則として共有者全員の合意が必要です。共有者の一人でも所在不明であったり、意思が不明確であったりすると、物件の有効活用ができず、結果として「塩漬け」状態になってしまうのです。
2023年の民法改正:共有制度の主な変更点
このような問題を踏まえ、2021年の民法・不動産登記法改正に続き、2023年には共有制度の更なる見直しが行われました。主な変更点は以下の通りです。
共有物の管理に関する意思決定の柔軟化
従来、共有物の管理行為には共有者の過半数の同意が必要とされていましたが、改正後はこれに加え、共有者の所在不明や不合理な反対によって管理が困難な場合には、家庭裁判所の許可を得ることで対応可能となりました。これにより、実質的に使用している共有者が、より柔軟に管理行為を行えるようになりました。
共有物の分割に関する制度の整備
共有物の分割は、共有者全員の合意がなければ原則として実現しませんでしたが、改正により、一定の条件下では裁判所が分割方法を決定し、共有状態を解消できる道が開かれました。これにより、長年分割できなかった共有不動産にも解決の糸口が示されました。
所在不明共有者の権利制限制度の創設
所在不明共有者が存在し、そのために共有物の管理や処分ができない場合に、裁判所の判断で当該共有者の権利行使を制限することが可能になりました。これは、相続や長期放置によって所有者の消息が不明になったケースへの現実的な対応策といえます。
改正の意義と実務への影響
今回の改正により、共有制度は大きく「機能性重視」の方向へ舵を切りました。これまで法的には形式的に平等とされていた共有者の地位が、実質的な利用状況や意思表示に応じて差別化されるようになり、「誰のための所有か」という根本的な問いに応える制度へと進化しています。
不動産の利活用を円滑に進めたい地方自治体や開発業者、あるいは実際に不動産を共有している個人にとっては、非常に実務的な恩恵がある一方で、意思決定が一部共有者に偏ることで新たなトラブルを生む懸念も指摘されています。特に、制度を悪用して共有物の処分を進める「追い出し型」のケースに対する歯止めは引き続き注視が必要です。
今後の展望と法制度のあるべき姿
民法改正はゴールではなく、あくまで社会の変化に応じた「手段の更新」にすぎません。人口減少と高齢化が進む日本社会では、共有物の管理や処分を迅速かつ適切に行える制度の整備が今後も重要です。
また、共有関係を未然に避けるための教育や登記の義務化といった、予防的アプローチも並行して進めるべきでしょう。市民一人ひとりが「所有」の意味を再考し、共有を選択する場合にはその責任とリスクを十分に理解することが求められます。
終わりに
民法の共有制度改正は、所有者不明土地という複雑で根深い社会課題への対応として生まれましたが、その影響は今後の不動産実務や個人の資産形成にも波及することは間違いありません。改正の趣旨を正しく理解し、共有に関する意識と実務をより透明で合理的なものにしていくことが、私たちに課せられた次のステップと言えるでしょう。