実家の空き家問題
- 売却
実家が空き家になってしまう前に——将来のために考えたい「空き家問題」とその選択肢
人生の節目を迎える頃、私たちは「実家」という存在と改めて向き合う機会が訪れます。
子育てもひと段落し、仕事も落ち着き始めた40代後半から50代。ふと、親の住む実家を訪れた際に感じる「この家、将来どうするんだろう?」という漠然とした不安——。
親が他界したり施設に入居したりすれば、実家は空き家になります。自分自身の家は既に所有しており、わざわざ住み替える必要もない…。そのような状況の中で、「実家の空き家問題」は避けて通れない現実となります。
今回は、実家が空き家になることによるリスクと、なぜ今その選択を考えるべきなのかを、所有者の視点で深掘りしていきます。
なぜ、空き家のまま放置されてしまうのか?
ある調査によると、空き家をそのままにしている理由には、次のようなものがあります。
- 解体には費用がかかるから
- 思い入れがあって手放せない
- 将来的に使う可能性があるから
- 売却したいが、買い手が見つからない
- 資産価値を維持しておきたい
- 面倒で考えたくない
- 更地にすると固定資産税が上がるから
- 他の用途で使うかもしれないから
- その他
これらの声から見えてくるのは、「気にはなっているけれど、踏ん切りがつかない」という心理です。
しかし実際のところ、放置することでリスクやコストが年々大きくなっていくことを、多くの人が見過ごしています。
放置された空き家に潜む「価値の下落リスク」
- 密閉された室内に湿気がこもり、カビが異常繁殖
- 家具や建具が腐食し、タンスやソファーが痛む
- フローリングのひび割れ、畳の腐り
- 玄関ドアの歪みや部分的な崩壊
- シロアリの繁殖
- 悪臭の発生(排水口の水が蒸発)
- 蜂の巣の形成や害虫の発生
- 雨漏り(コーキング劣化)
- ネズミの侵入と電気配線の破損・火災リスク
空き家は生きた建物ではなく、「死んだ空間」になりがちです。
当然、これらの劣化が進むほど、建物の資産価値は急激に下がります。築年数が同じでも、しっかり管理されている家と放置された家では、売却価格に大きな差が出るのです。
実は大きな「所有者責任」のリスクも
空き家を所有しているだけで、法的な責任が発生することをご存じでしょうか?
民法第717条では、建物が崩壊したり飛来物で人や財物に被害が出た場合、所有者に過失がなくても損害賠償責任を負うことが定められています。これは「工作物責任」と呼ばれています。たとえ自分が住んでいないとしても、隣地に瓦が飛んだ、老朽化した塀が倒れた、といった事故が起これば、所有者が責任を問われる可能性があるのです。
「特定空き家」に指定されたら、最悪土地まで失うことも
2015年に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法(通称:空き家法)」では、以下のような空き家を「特定空き家」と定義し、行政が直接関与できるようになっています。
- 倒壊など、保安上危険な空き家
- 衛生上有害な状態の空き家
- 著しく景観を損なう空き家
- 地域の生活環境を著しく悪化させる空き家
特定空き家に指定されると、行政からの指導・勧告・命令が下り、最終的には強制的に取り壊しされます。しかも、その費用はすべて所有者負担。支払えなければ、土地が公売にかけられるという事態にもなり得ます。空き家を放置しているだけで、資産を丸ごと失ってしまうリスクがあるということです。
売却という選択が、家族の未来を守る手段になる
ここまでの内容を見ると、「面倒だから放っておく」「売るのは忍びない」といった理由が、いかに将来的にリスクを大きくするかがお分かりいただけたと思います。
では、どうすればよいのでしょうか?
選択肢としては主に以下の3つです。
- 定期的に管理・維持しながら保有する
- 賃貸に出して活用する
- 売却する
この中でも最も現実的で、リスクを早期に断ち切れるのが「売却」という選択です。
空き家売却のハードルは年々下がっている
かつては「地方の空き家は売れない」「ボロボロの家は誰も買わない」と言われていました。しかし、今は空き家をリノベーションして再利用する「再生系投資家」や、古民家再生ブーム、空き家を活用した民泊など、新しい価値の創出が注目され、買い手が増えています。また、解体して更地として売る場合も、建物付きより固定資産税が高くなるとはいえ、長期的に見れば管理費や修繕コストがかからないため得策になる場合もあります。売却によって得られる資金を、親の介護費や自分たちの老後資金に充てることもでき、「実家が負担から、未来への準備資金になる」可能性もあるのです。
ご家族と話すタイミングは「今」
空き家の問題は、親が元気なうちから話し合っておくことが何よりも大切です。
- 「誰が相続するのか」
- 「いつまでにどうするか」
- 「もし空き家になったらどう活用するか」
このようなテーマを避けずに共有しておくことで、将来的なトラブルや遺産争いも防ぐことができます。また、売却は「今の状態」でこそ有利です。劣化が進んでからでは、売却価格も下がり、買い手もつきづらくなってしまいます。
大切なのは、「受け継ぐこと」ではなく「選択すること」
実家は確かに思い出の詰まった場所です。しかし、家は人が住んでこそ価値を保てる資産です。放置することは、資産を損ない、リスクを抱えるだけでなく、次世代への負担を残すことにもつながります。「売却」は、家を手放すことではなく、未来の選択を自分たちの手でコントロールするという前向きな決断です。ぜひ一度、ご家族と話し合ってみてください。実家が空き家になる前にできることが、たくさんあるはずです。