マンション修繕積立金不足問題の現状と対策

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近年、日本の分譲マンションが直面する大きな課題のひとつが、修繕積立金不足です。
国土交通省が2024年6月に公表した「令和5年度マンション総合調査」によると、長期修繕計画で必要な積立金額に対し「不足している」と回答した管理組合は36.6%に上ります。前回調査よりも増加しており、多くのマンションで資金不足が進んでいることがわかります。
この問題の背景には、購入時の満足を重視する一方で、長期的な資産管理や維持費への関心が低いという消費者行動があります。人々は立地や間取り、価格には敏感でも、維持コストや将来の修繕費については十分に意識しない傾向があり、その結果、積立金不足が構造的に進行しています。

国の新基準が示す現実対応 ― 1.8倍の引き上げ

2024年2月、国土交通省は修繕積立金の徴収額を段階的に引き上げる際の上限を「最大1.8倍」とする新基準を発表しました。これは、平均的な修繕積立金が25年間で約1.8倍に増えているという実態を踏まえた現実的な対応策です。
この動きは、修繕積立金を単なるコストではなく、建物の資産価値を守るための投資として捉える考え方への転換を促しています。購入者にとっても、「将来の修繕費用は避けられない必要経費である」と理解することが重要です。値上げは一見負担に見えますが、長期的に建物を安心して利用するための準備でもあります。

修繕積立金不足解消に向けた具体策

修繕積立金不足を解消するには、単に値上げするだけでなく、コスト構造の見直しも重要です。多くのマンションでは、管理委託費が全体支出の大部分を占めています。しかし、管理会社の比較検討を行っている管理組合は全体の24%、実際に切り替えたのは18%に過ぎません。大手ディベロッパー系列の管理会社に対する安心感が、競争を阻害していることが原因です。
実際に管理会社を切り替えたマンションでは、平均で約3割のコスト削減に成功した例もあります。つまり、「選択しないリスク」が積立金不足につながることを理解しておく必要があります。

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ブランド神話からの脱却 ― 選ぶ力が資産価値を守る

「大手に任せておけば安心」という信頼は、かつては正しかったかもしれません。しかし、同じ品質をより低コストで提供できる独立系の管理会社も増えてきています。購入者や住民が価格・品質・サポートの三軸で合理的に判断することは、マンション全体の価値を守るうえで欠かせない行動です。
ブランド神話にとらわれず、透明な情報をもとに選択することは、管理組合だけでなく、購入者としても資産価値を守る重要な判断になります。

修繕周期の見直し ― 長期視点での価値管理

従来、マンションの大規模修繕は12年周期が標準でしたが、近年では15〜18年周期への見直しが進んでいます。建材や施工技術の進歩により、科学的根拠に基づいた修繕周期の延長が可能になってきたためです。
これは、マーケティングで言う「ライフサイクルマネジメント(LCM)」の考え方と通じます。建物の価値を長期間にわたって最適化する戦略であり、単なる節約ではなく、計画的な維持管理による長寿命化という価値提案です。

購入者としてできること

これからマンションを購入する人は、修繕積立金の現状を理解することが必須です。確認しておきたいポイントは以下の通りです。

  • 修繕積立金の残高と長期修繕計画の整合性
  • 管理組合の意思決定プロセスや住民参加度
  • 管理会社の選定方法や費用の妥当性
  • 過去および今後の修繕実績

これらの情報を購入前に把握することで、将来の不意な出費やトラブルを防ぐことが可能です。

マンション管理は「未来のブランド戦略」

修繕積立金不足の問題は、単なる経済的課題ではありません。それは、コミュニティの持続可能性、住民間の信頼、そして建物の資産価値にも直結する重要なテーマです。購入者としても、積立金の現状を理解し、管理体制を確認することが、安心で快適な暮らしにつながる第一歩です。
マンション管理は、単なる維持管理ではなく、未来の資産価値を守る「ブランド戦略」として考えることが大切です。

この記事を書いた人

高島 亮 宅地建物取引士 ・住宅ローンアドバイザー ・既存住宅アドバイザー