イラン情勢から考える賃貸経営のリスク対策
- 賃貸管理
中東情勢の緊迫化は、原油価格や海上輸送だけの問題ではありません。建材や住宅設備の多くが海外の資源・部品・物流網に支えられている現在、遠い地域で起きた混乱が、修繕費の上昇や設備の調達難・納期遅延という形で賃貸経営に波及する可能性があります。
特に日本は原油調達の中東依存度が高く、資源エネルギー庁によると2023年度は94.7%でした。また米国エネルギー情報局(EIA)によれば、2025年上期にホルムズ海峡を通過した石油は1日平均2,090万バレルで、世界の石油系液体燃料消費量の約20%に相当します。さらに、同海峡を通過した原油・コンデンセートの89%はアジア向けで、日本も主要な仕向け先の一つです。
重要なのは、「どの地政学リスクが自分の物件のどこに影響するか」を整理し、修繕や設備交換で後手に回らないことです。世界情勢そのものをコントロールすることはできなくても、それによって生じる資材高騰や供給遅延には備えることができます。
地政学・供給リスクと賃貸経営への影響
| リスク | 主な影響 | 対策 |
|---|---|---|
| 中東情勢の緊迫化 | 塗料・防水材・物流費などの上昇 | 修繕予算を早めに見直す |
| 台湾海峡・東アジアの緊張 | 半導体不足で給湯器・エアコン等の納期長期化 | 予防交換、標準品を選ぶ |
| 木材需給・国際物流の混乱 | 木造建築・改修費の上昇 | 国産材や代替仕様も比較 |
| 資源ナショナリズム | 鉄・銅・アルミ高騰で建築・改修費が上昇 | 新築と中古+改修を比較 |
原油高は修繕費にどう波及するのか
塗料や防水材も「石油価格」と無関係ではない
原油は燃料だけでなく、ナフサを経て樹脂などの石油化学製品の原料になります。そのため、中東情勢やホルムズ海峡などの輸送ルートの混乱で原油・物流コストが上昇すれば、塗料、防水シート、樹脂製の住宅設備などにも価格上昇圧力がかかります。
賃貸オーナーにとって問題なのは、ニュース上の原油価格そのものではなく、数年前に作った修繕計画と実際の工事費に差が生じることです。外壁や屋上防水など大きな支出を予定している場合は、工事直前になって予算超過に気付くことがないよう、早めに概算見積もりを取り、実勢価格に合わせて予算を見直しておくことが重要です。
なお、足元ですべての建設資材が不足しているわけではありません。国土交通省の2026年7月調査では、主要資材の需給は全品目で「均衡」、在庫も「普通」でした。一方、アスファルト合材、異形棒鋼、H形鋼、型枠用合板は前月比で「やや上昇」とされており、需給が安定していても価格変動への備えは必要です。
長期修繕計画は定期的に「現在価格」へ更新する
修繕計画は、一度作れば終わりではありません。資材費や人件費が変われば、必要な積立額も変わります。
例えば5年後に大規模修繕を予定しているなら、現在の見積額だけでなく、一定のコスト上昇があっても資金繰りが成り立つかを確認しておくことが重要です。地政学リスクへの備えとは、相場を当てることではなく、価格が動いても計画が破綻しない余裕を持たせることです。
設備は「壊れてから交換」だけではリスクになる
半導体の供給途絶は住宅設備にも波及し得る
給湯器やエアコン、インターホン、スマートロックなど、現在の住宅設備には半導体や電子基板などの部品が使われています。経済産業省も半導体を安定供給の確保が必要な重要物資として位置付け、サプライチェーン途絶への対策を進めています。台湾海峡をはじめ東アジアで地政学的な緊張が高まり、部品供給や物流が滞れば、住宅設備の生産・供給にも影響する可能性があります。
賃貸経営で注意したいのは、設備価格の上昇だけでなく、「故障したのに交換品が届かない」ケースです。特に給湯器のような生活に直結する設備では、復旧が遅れるほど入居者対応も長期化し、場合によっては退去や空室期間の長期化につながる可能性もあります。
「ジャスト・イン・タイム」から「ジャスト・イン・ケース(万が一への備え)」への転換
これまでのように「壊れたら、その都度必要なものを発注する」という効率重視の考え方だけでは、供給網が不安定になった際に対応が遅れる可能性があります。そこで重要になるのが、必要になってから調達する「ジャスト・イン・タイム」から、万が一に備える「ジャスト・イン・ケース」へ発想を切り替えることです。
設置から10年を超える給湯器やエアコンなどは、年式や故障履歴を把握し、状態に応じて予防交換を検討します。10年は一律の交換期限ではありませんが、故障時の影響や部品供給も含めて交換を検討する一つの目安になります。複数戸を所有している場合は、設置年・型番・メーカーを設備台帳として整理しておくと判断しやすくなります。
故障してから慌てて交換品を探すのではなく、あらかじめ交換時期や代替品を検討し、「時間的な余裕」を持つことが供給遅延への備えになります。
調達の「多角化」と「ローカライズ(国内回帰)」への適応
もう一つ重要なのが、調達先を多角化し、供給状況に応じて柔軟に製品を選べる体制を整えることです。
いつものメーカーが欠品した場合に、同等性能の別メーカーへ切り替えられるよう、管理会社や工務店とあらかじめ方針を共有しておきます。特定のメーカーに固執せず、国内流通在庫が豊富な標準モデルも候補に入れておけば、供給が滞った際にも対応しやすくなります。価格や性能だけでなく、「必要なときに調達できるか」という視点も設備選びでは重要です。
物件購入でも「サプライチェーン」を見る時代へ
木材価格は下がっても、ウッドショック前には戻っていない
木材については、「ウクライナ情勢がそのまま木材高を引き起こした」と単純化するのは適切ではありません。木材市場は、国際情勢だけでなく海外需要や海上輸送など、複数の要因から影響を受けます。
林野庁によると、2021年のウッドショックは、米国の住宅需要増加や海上輸送の混乱などが背景でした。2024年の木材価格はピークから低下したものの、価格上昇前の2020年より高い水準にあります。
これは、海外需給や物流の変化が国内の建築コストに波及し得る一例です。建築費が上昇すれば、新築時の投資利回りを圧迫する要因にもなります。新築や大規模改修では、国産材や代替工法・仕様も含め、複数案を比較しておくことが重要です。
表面利回りだけでなく「更新後の収支」を考える
鉄、銅、アルミニウムなどの鉱物資源についても、主要国が自国の産業や経済安全保障を優先して資源を囲い込む「資源ナショナリズム」が強まれば、RC造や鉄骨造、配管などの建築・改修コストに影響する可能性があります。
建築費が高い局面では、新築だけが正解とは限りません。立地の良い中古物件を取得し、必要な部分を選んでリノベーションすることで、総投資額を抑えながら物件価値を高められる場合もあります。
中古物件を購入する際は、給湯器、エアコン、外壁、防水、給排水設備などの更新時期を確認し、購入後5〜10年の支出まで収支計画に織り込むことが重要です。表面利回りだけでなく、将来の修繕・設備更新費まで含めた収益性を比較する必要があります。
まとめ
- 修繕計画を現在価格で見直す
- 設備を予防交換し、時間的な余裕を持つ
- 調達先や代替メーカーを複数用意する
- 購入時に将来の更新費まで見る
こうした対応は、オーナー自身でコントロールできます。
これからの賃貸経営では、「安く調達する」だけでなく、「供給が乱れても経営を止めない」という視点が重要です。世界の地政学リスクを把握し、それを修繕計画や設備管理、物件購入という具体的な経営判断に落とし込むことが、物件を長く安定して運用するための防衛策になります。
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