相続した不動産を賃貸に出す場合のポイントー2023年の民法改正の影響
- 賃貸管理
2023年4月に改正された「共有物の変更、管理の内容に関する規律」をご存知でしょうか?
この改正は、相続によって不動産の共有名義人が多数存在する場合や、相続人が多くて遺産分割の方向性が決まらない不動産の活用に関する問題を解消するためのものです。
今回は、この改正について、知っておくと得する情報をご紹介します。
多くの相続人がいる場合の問題点とは?
旧民法では、共有物に小さな変更を加える場合でも、原則的には共有者全員の同意が必要でした。たとえば、建物の屋根や外壁に水漏れがあり防水工事が必要...というような場合でも、すべての共有者の同意が必要でした。
これにより、共有物の利用や管理がスムーズに行えないことがありました。
また、多くの相続人がいる場合、遺産分割協議がまとまらないという問題がよくあります。分割協議が整わない間、共有物は相続人全員の所有物となり、意見の調整がさらに難しい状況になります。
法改正で「全員の同意」が不要に
この問題を解決するため、2023年の改正で共有物に軽微な変更を加える行為について、持分の価格が過半数を超える人のみで決定できるようになりました(民法251条1項、252条1項)。
ここでいう「軽微な変更」とは、「建物の形状や効用が変わらない程度の変更」を指し、「形状の変更」とは建物外観や構造の変更のこと、「効用の変更」とは土地・建物の機能や用途の変更を意味します。例えば、砂利道をアスファルトに舗装しても、土地の用途には大きく影響がないため、「軽微な変更」に当たると考えられます。
改定後、問題解決に役立つポイント
改定前は、物件売却のためにリフォームやフルリノベーションをしようと思っても、共有者の中に1人でも反対意見の人がいれば進めることができませんでした。
例として、物件を高く売れるチャンスだが、建物が古くて買い手がつかないという場合、遠方に住んでおり実際に建物を見ていない相続人はリノベーションの必要性がわからず、賛成してくれない...というケースがよくありました。
しかし、今回の改正により、共有者の過半数が同意すれば、こうした計画を進めることができるようになりました。これにより、分割できない不動産を現金化し、遺産分割協議を進めやすくなりました。
これは相続の際に起こるさまざまな問題の解決に大きく貢献するでしょう。
相続した不動産を賃貸に出す場合のポイント
相続した不動産を賃貸に出すことは、以前は実務上、共有者全員の同意を得なければならないことが一般的でした。
これは「長期間の賃貸借」に関する基準が不明確だったためで、不動産の円滑な利用を妨げる要因のひとつとなっていました。
「賃借権」とは?
一定期間、他人の土地や建物を使用し、その対価として賃料を支払う権利のことを指します。これは、賃貸契約によって生じる権利で、賃借人が物件を利用する法的な根拠となります。
しかし、2023年の法改定(民法252条4項)により短期の賃借権の範囲が明確にされ、3年以内の定期借家賃貸借契約なら、持分の過半数の人で決定できるようになりました。
この変更により、賃貸に出すことの賛成者が一部だけの場合でも、最大3年間ならば家賃収入を得ることができるようになりました。
物件のあるエリアによっては、3年間の家賃収入でも大きな利潤を生み出すことがあります。そのため、活用されていない資産があれば、積極的に賃貸として運用することをお勧めします。
これにより、相続した不動産をより効果的に活用できるようになるでしょう。
改正民法における共有物の変更・管理・保存概念の整理
管理(最広義)の種類 | 根拠条文 | 同意要件 | |
---|---|---|---|
変更(軽微以外) | 新251条1項 | 共有者全員 | |
管理(広義) | 変更(軽微) | 新251条1項・252条1項 | 持分の価格の過半数 |
変更(狭義) | 新251条1項 | ||
保存 | 新252条5項 | 共有者単独 |
引用元:法務省民事局「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」30頁、2021年12月
このように、法改正により、不動産の相続時に起きうるいくつもの問題が解決に向けて前進しました。
しかしながら、多くの共有者がいる不動産については、売る時も貸す時もまだまだ難しい問題が発生することが多いです。
ウィル・ビーは、このようにさまざまな問題が発生した際に、不動産のプロの目線からご相談に応じることが可能です。もしお困りのことがございましたら、ぜひ一度ご連絡ください。