不動産の売買契約における契約不適合責任(瑕疵担保責任)とは何か?
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従来は売買をした後にわかった不都合について、売主は瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん:欠陥品を売った時に負う責任)を問われていましたが、民法が改正され契約不適合責任を負うこととなりました。
法律の難しい用語については解説をはさみつつ、瑕疵担保責任から契約不適合責任にどのように変わったのかを解説します。
契約不適合責任とは 追完・代金減額・損害賠償・契約解除の請求
契約不適合責任とは
瑕疵担保責任から契約不適合責任になり、以下の3点が変更されました。
- 旧法では瑕疵担保責任は目的物が特定物(簡単にいえば、世界に一つしか存在しないもの。例えばAマンション101号室は世界に一つなので、不動産は特定物)であるときでした。改正後は特定物か不特定物(缶ビールなど、同じ種類のものがたくさん存在する物)かは問わず、引き渡された物が「契約の内容に沿っているか」が問題になります。
- 旧法では、瑕疵(欠陥)の有無が問題でしたが、改正後は当事者間で締結した契約の内容にあっているか否かが問題になります。
- 旧法では「隠れた瑕疵」であり「買主が善意」であること(=隠れた欠陥について買主が知らないこと)が要件となっていましたが、改正後は削除され要件ではなくなっています。
改正により、売主が買主と品質や数量を「契約」した事実に責任を負っていることを明確にしたものです。
また、買主は契約した数量や品質に不足があれば、契約解除や損害賠償に加えて、追完請求、代金減額請求ができることとされました。これにより、買主はたとえ目的物に不備があっても契約したことを活かしながら売主に対して請求できる方法が増えました。
例えば、旧法によれば瑕疵担保責任の規定により、不都合があった場合の買主の選択肢は契約を解除するか、または損害賠償を請求するしかありません。
そのため、自宅を購入し引っ越した後に不都合がわかっても購入した不動産に住んでいる限りは契約を解除することも難しく、損害賠償を請求するにしても「隠れた瑕疵」の立証が難しく、更に賠償責任が認められても修理は買主が自分で行わなければなりません。
これでは、不都合が解消されればよいだけなのに、ハードルが高くて結局あきらめてしまうことが多くなってしまいます。
このように、「契約の解除や損害賠償請求まではしなくてよいのだけれど、不足しているところは解消してほしい」というときに、今回の改正によって、より現実的な解決が可能になったのです。
今回の民法改正によって、追完あるいは代金減額の請求権が追加されましたが、損害賠償請求や契約の解除請求については、一般的な規律である第415条、541条、542条に従うことになります。
ただし、特定物の引渡しなどに条件付けをするなど、細かな規定の調整が行なわれています。
瑕疵
キズ・欠陥のことをいい、この場合は契約に適さない不都合なことをいいます。
壁の穴など物理的な瑕疵だけではなく、過去に自殺や殺人事件があった物件などの心理的瑕疵、建て替えをするつもりで買ったのに建築基準法による制限のために再建築できないなど法律上の瑕疵なども含みます。
善意
法律効果(効果の発生、消滅、効力など)に影響する事実を知らないことを言います。
追完請求
買主は契約した内容に満足していないものを引き渡された場合に、契約通りの品質・数量を満たしたものを引き渡すことを請求できることが明らかにされました(民法562条)。
担保責任を旧法では法定責任だととらえていたものが、契約によって当然生じる責任だとする考え方から新設された規定です。
売買された建物にキズがあったり壊れたりしていたら「修理してください」と請求できるということです。
追完請求も代金減額請求も同様に、旧法の規定の仕方(不足があれば即契約解除・損害賠償請求)よりは、売主と買主双方の利益を衡平に保つための規定だといえます。売主は、追完請求をされた場合に買主に不等な負担を生じさせるものでなければ、請求された方法とは別の方法で追完することもできます。
法定責任
法律が定めているから生じる責任だとする立場
代金減額請求
不完全な箇所を補修するように請求しても売主が対応してくれない場合や、補修や補完ができないときには、代金の減額をすれば妥協しましょうと提案(請求)できることになりました。
代金減額請求は、追完請求ができないときの代替策ですから、まずは追完請求をして「不備を直して」くれるように請求し、それでもダメなら「それでは代金を減額」しなさいと請求できますよ、という規定です。
ただし、明らかに補修が難しくてできないような場合に、補修の催告をするのは時間と手間の無駄になりますから、この場合は追完請求をすることなく直ちに代金の減額請求をすることができます。
損害賠償請求
損害賠償請求に関しての変更点は以下の2点です。
- 売主に帰責事由(売主の落ち度)がなければ損害賠償責任がないこと
- 損害賠償責任の範囲は信頼利益だけでなく履行利益にも及ぶこと
新法第564条により、「第415条の規定による損害賠償」と規定されたことから、債務不履行の一般規定が適用されることになります。
瑕疵担保責任を規定していた旧民法第570条では損害賠償は無過失責任だとしていましたが削除されました。
判例では帰責性が必要だとの判断が積み重ねられていましたから、条文をこちらに合わせたのです。
また、第564条によって損害賠償の範囲についても旧法では信頼利益に限られていたものが、履行利益も含まれることになりました。
信頼利益
契約を信じたことによって被った損害のことです。
例えば、不動産購入のために借り入れをした場合の利息など。
履行利益
契約がきちんと履行されていれば得ることができた利益です。
例えば、購入した不動産を転売して得ることができたであろう利益など。
契約解除請求
旧法で解除できるのは「契約の目的が達成できないとき」に限られていましたが、改正後は、目的物に「契約と適合しないことがあるとき」には、催告して、あるいは催告しなくても解除することができると改められました。新法541条および新法542条の規定によることになります。
売主は催告解除を催告されたときでも、不都合な状態が「軽微」であれば解除を拒絶できます。
契約の目的を達することができないときには、催告することなく解除できることは従来と変更ありません。
契約解除のために売主に帰責事由は必要ありません。また、契約を解除しても別に損害賠償の請求をすることも可能です。
解除
契約が「解除」されると契約がはじめからなかったことになります。
権利行使と期間の制限
契約において当事者に定めがなければ、買主は売主に対して不都合な事実を知った時から1年以内に不適合があることを売主に通知する必要があります。ただし、当事者間の特約によってもっと短期間にすることも可能です。新法で規定された契約不適合責任は、任意規定だとされているからです。
旧民法で規定されていた瑕疵担保責任も任意規定と解されていたため、「瑕疵担保責任を負わない」「3ヶ月間の瑕疵担保責任」などとする特約がされることがありました。新法における契約不適合責任も任意規定だと解されていることから、期間については今後もこのような定め方をすることは可能です。ただし、「全く責任を負わない」特約の有効性については、問題があるため次項で改めて解説します。
旧法と異なり、解除権や損害賠償請求権を「行使」する必要はなく、指摘を「通知」すれば足ります。
ただし、それぞれの権利行使は消滅時効(=その期間をすぎると権利を主張できなくなるという締切日)にかからないうちに行う必要があります。消滅時効の期間は、「権利行使ができることを知った時から5年間」、「権利行使ができる時から10年間」とされています。
任意規定
当事者間で合意することで変更、適用なしとすることができる規定をいいます。当事者間に特別の定めがなければ原則である任意規定が適用されます。
免責特約は有効
売主が、責任を負いたくない、負えない部分については明確にしておくことで免責されます。
ただし、知りながら告げなかった事実などは免責されませんから注意してください。新法第572条の規定によります。旧瑕疵担保責任においても「知っていて告げなかった瑕疵」については免責されないことは同じです。旧法の瑕疵担保責任では、「全く責任を負わない」旨の特約も有効でした。
しかし、新法による契約不適合責任においてはこの「全く責任を負わない」特約は契約として成り立ちません。
なぜなら、瑕疵について責任を負わないだけでなく、売買代金、履行時期、確定測量を行なう約束、など契約において定めた全ての責任を負わないことはありえないことだからです。これが許されるとすれば契約をする意味がありません。
それでは、新法に適合するための免責特約の定め方はどのような内容になるかというと、不都合な部分、免責されたい部分を「容認事項」として一つずつ書き上げていくことになります。古い建物が売買の対象であれば、不都合があるおそれがある事項、例えば雨漏りやシロアリ被害などについて免責特約を付すことが大切になります。
また、付帯設備についても、どのような付帯設備があり記載があるものについては免責されるものとするなど免責される範囲を明確にしていく必要があります。不動産会社に売却を依頼すると売主は「付帯設備表」「告知書」を手渡されます。付帯設備表は売主自身が撤去の有無、不具合状況などを記載します。
告知書は心理的な要因で瑕疵と言われるものや環境的、物理的な要因で瑕疵と言われるものなどを記載します。これらの書類は不動産会社が受け取り、最終的に買主に渡されるものです。
こちらの記載は契約不適合責任の範囲を判断する重大な資料になりますから、売主も買主も慎重に検討する必要があります。
なお、以下の法律には免責されない場合について特別の規定があります。
- 宅地建物取引業法
- 消費者契約法
- 住宅の品質確保の促進等に関する法律