住まいの購入と相続税対策

  • 資金計画

相続税について心配されている方は多いです。
節税対策として生命保険を利用するなどいろいろな方法がありますが、今回は不動産に焦点をあてて解説します。

節税対策ポイント

  • 相続財産の価格を下げる
  • 相続回数を少なくする

相続税は、生前の財産をすべて金額として評価するところから始まります。相続税の金額を算出するための基準となる相続税評価額というものを出し、それに対して一定の比率をかけて相続税額を算出するというのが原則的な流れとなります。
相続税評価額は、保有していた不動産の種類や生命保険によっては、実際よりも少なく加算できる特例的な制度が用意されています。それらの特例をうまく利用することによって、課税の対象となる財産の評価額を下げることができ、結果的に節税につながるのです。

不動産が節税に役立つ理由

不動産が節税に役立つ理由は下記の2つです。

  • 不動産の評価方法に特性がある
  • 不動産の評価方法に特例がある

不動産の評価方法に特性があるから

不動産には現実に取引される実勢価格(時価)の他に公的な4つの評価方法があります。

  1. 路線価(倍率方式)
  2. 公示地価
  3. 基準地価
  4. 固定資産税評価

このうち、相続税の課税は、土地は路線価、建物は固定資産税評価額が基準となります。
このため現金を不動産に変えると8割程度の評価額に下げることができるのです。

不動産が節税に役立つ理由

1.路線価

路線価は相続税や贈与税を計算する基準として国税庁が毎年7月ごろに公表している価格で、公示地価の8割をめどに地域の特性を加味して、主要道路に1㎡当たりの単価を割り振り土地の価格を算出しています。
路線価が定められていない地域については固定資産税評価額に国税庁が定める一定の割合をかけて相続税などの基準値を算出します(倍率方式)。

2.公示価格

国土交通省が毎年1月1日を基準日として毎年3月下旬に公表されるもので、路線価や固定資産税評価額の基準にされています。

3.基準地価

基準地価は各都道府県が国土利用計画法に基づき一般の土地取引の指標とするために9月下旬に公表している土地の価格です。

4.固定資産税評価額

固定資産税評価額は、固定資産税を計算するための基準として各市区町村役場が公表しているもので、公示地価の7割が目安とされていますが、各市区町村役場が独自の基準によって修正しています。
固定資産税評価額は固定資産税だけではなく、不動産登記の際に納める登録免許税や不動産取得税の計算の基礎とされています。 なお、建物の評価額は実際の建築費の6割程度だといわれています。

不動産の評価方法に特例があるから

相続税を計算する際に不動産には

  1. 小規模宅地の特定
  2. 貸家貸付地の特例
  3. 貸家の特例

などの特例が適用されるため、評価額の減額があります。

1.小規模宅地の特例

亡くなった方が居住していた不動産、事業に利用していた不動産について最大80%減額される特例です。
亡くなった方が自宅としていた土地であれば330㎡まで80%減額されます。
他人に貸していた土地については50%までの減額となります。

2.貸家貸付地の特例

アパートなどを建てていて他人に貸し付けている場合には、貸家貸付地として減額評価されます。
他人の借家が建っているため土地所有者の権利が制限されるためです。

計算は(路線価額×借地権割合×借家権割合(30%)×賃貸割合) で計算します。

借地権割合とは路線価とともに国税庁が定めている減額割合で30%〜90%の割合が公示されています。借家権割合は現在では全国一律で30%とされています。賃貸割合とは実際に賃貸している割合で、満室であれば100%となります。

単純化した例を出すと
路線価   1億円
借地権割合 70%
借家権割合 30%
賃貸割合  100%
とすると
1億円×70%×30%×100%=2,100万円
1億円-2,100万円=7,900万円
1億円の土地が7,900万円として評価されます。

相続の回数を減らし相続財産を少なくする

相続税の節税を考える場合に、相続財産の評価額を下げることはもちろん大切ですが、相続そのものが発生しなければ相続税の心配がなくなります。 すなわち相続財産を少なくし、生前に財産の移転をすませておくことです。 これには、

  1. 生前贈与によって名義変更
  2. 不動産取得時に贈与

をあらかじめ行うことによって、相続財産ではなくする方法です。

相続の回数を減らし相続財産を少なくする

1.生前贈与によって名義変更

生前贈与とは、生前に贈与をして名義の変更をすませておくことです。
生前贈与を行なう方法に下記の利用があります。

  • 暦年贈与
  • 相続時精算課税制度

暦年贈与

暦年贈与は毎年非課税枠である110万円の範囲〜少しオーバーする範囲で贈与を繰り返す方法です。
年間110万円の範囲内とはいえ、5人に対して10年間行なえば5,500万円の財産が減少することになります。

相続時精算課税制度

相続時精算課税制度は、贈与をしたときに贈与税を納める代わりに相続が発生した時に相続財産として課税される仕組みです。 贈与した時の時価が相続財産となりますから、贈与したものが贈与した時よりも相続時に価値が上がっていれば相続税の節税になります。
相続時精算課税制度を利用すれば、暦年贈与は利用できなくなりますから注意が必要です。

2.不動産取得時に贈与

不動産を購入するなどで取得する時に、子どもや配偶者の名義にしておけば相続財産になることもなく、贈与にともなう所有権移転登記なども不要ですから経済的です。
下記特例があります。

  1. 親子間の贈与の特例
  2. 配偶者控除の特例

1.親子間の贈与の特例

20歳以上の子どもや孫に住宅取得資金の贈与をする場合に、最大1,500万円贈与することが可能です。

国税庁:No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税

住宅用の家屋の新築等に係る対価等の額に含まれる消費税等の税率が10%である場合の非課税限度額

住宅様家屋の新築等に係る契約の締結日 省エネ等住宅 左記以外の住宅
平成31年4月1日〜令和2年3月31日 3,000万円 2,500万円
令和2年4月1日〜令和3年12月31日 1,500万円 1,000万円

上記以外の場合の非課税限度額

住宅様家屋の新築等に係る契約の締結日 省エネ等住宅 左記以外の住宅
〜平成27年12月31日 1,500万円 1,000万円
平成28年1月1日〜令和2年3月31日 1,200万円 700万円
令和2年4月1日〜令和3年12月31日 1,000万円 500万円

住宅取得資金の贈与と暦年贈与の110万円、あるいは相続時精算課税制度とを併用することが可能です。
なお、贈与税がかからない限度が1,610万円ですが、仮に購入したい物件価格が2,000万円だったときに差額の390万円についても親が出資する場合には、下記方法が考えられます。

  1. 子ども単独名義にする
    • 390万円について贈与税を納める
    • 390万円を親から借り入れる
  2. 親子共同名義にする

親子共同名義にすれば親の共有持分については相続財産になります。
単独名義にするために親から借り入れる場合には、きちんと借用書を作成し返済の約束通りに返済していることがわかるように振込みの方法で返済していくことが必要です。 借り入れをした場合には親が亡くなったときの借入残元金が相続財産になります。

2.配偶者控除の特例

配偶者に対して現在住んでいる家を贈与することも、今から購入する家や建築する代金を贈与しても贈与税がかかりません。
ただし、配偶者と20年間婚姻していること、贈与税の非課税は2,000万円が限度になっています。暦年贈与と組み合わせて2,110万円までは贈与税の負担をすることなく、贈与することが可能です。
また、配偶者控除による贈与は、死亡前3年以内の贈与は相続財産に組み込まれる規則から除外されていますから、万が一のときにも贈与したことが無駄にはなりません。
ただし、配偶者については

  • 1億6,000万円
  • 法定相続分

までは相続税がかからないことにも留意しておきましょう。

有効な不動産の特徴

相続税を節税するために不動産を利用する場合に、有効な不動産の特徴は次の通りです。

  1. 流動性が高い不動産
    • 購入希望者が多い
    • 購入できる人が多い(手頃な価格)
    • 融資がつきやすい
  2. 利回りがよい不動産
有効な不動産の特徴

1.流動性が高い不動産

相続税を節税するためとはいえ不動産を取得するには換金しやすいものでなければ意味はありません。 そのため流動性が高い不動産を選択しましょう。
駅や商店街に近いなど利便性があるマンションなどは人気があります。 また、価値が高ければよいわけでもなく、購入できる人が多い手ごろな価格の方が売却できる可能性は高くなります。 そして、購入希望者はほとんど住宅ローンを利用しますから、銀行から融資がつきやすい物件が相続税対策として取得する物件に向いています。

2.利回りがよい不動産

先に解説したように、他人に貸し付けている不動産の場合評価減の特例があります。
しかし、相続税を節税するために赤字になるような不動産を手に入れるのは本末転倒になってしまいます。
また、賃貸をする場合にはリスクが伴います。 満室でなければ家賃収入が入りませんし、銀行から借り入れて購入資金にした場合には金利負担がありますから金利の変動によっては負担に感じることがあります。

注意点

相続税対策をするにあたって注意が必要なことがあります。

  1. 二次相続も考慮
  2. 借金をしての相続税対策は慎重に

1.二次相続も考慮

二次相続とは、例えば、父親が亡くなったのちに、母親と子が相続し、その後に母親が亡くなることで、子供が両親の財産の全てを相続することです。
相続税対策として配偶者に生前贈与を行い、さらに相続税を減額するために1億6,000万円の相続税の配偶者控除あるいは法定相続分までの非課税枠を全て使うなど、配偶者に財産を集中した場合には、今後配偶者の相続が開始したときの相続税額が大きくなってしまいます。
このため、今回の相続税対策を機会に財産の分配も考慮して行なうと将来に向けての対策もあわせて行なうことになります。

2.借金をしての相続税対策は慎重に

かつては、借金をすれば相続税対策になるといわれて、収益物件を購入することがありました。
例えば

  • 現金1億円
  • 不動産価格7,000万円
  • 不動産評価額5,000万円

としますと、単純計算では
①7,000万円借り入れた場合 : 1億円+5,000万円-7,000万円=8,000万円
②7,000万円を現金支出した場合 : 1億円-7000万円+5,000万円=8,000万円
となり借り入れても現金から支出しても同額になります。
借り入れて行なう相続税対策が有効になるためには、不動産評価額以上の財産価値があること、借り入れに見合う不動産収益があることなどの条件が必要です。
借り入れをするリスク、賃貸物件を運営するリスクを考慮して慎重に選択する必要があります。